– とらふぐを美味しく食べる！代表的な料理と珍しい食べ方 –

高級食材として知られているとらふぐですが、実は約1万年前から日本人に食されていたとされている食材です。魚としては珍しく、皮やひれ、精巣（白子）など白身以外の部分も食べられています。代表的な刺身や鍋だけでなく、珍しい食べ方もあるなど料理法も様々です。そこで今回は、とらふぐを美味しく食べる為にも様々な食べ方について紹介していきます。

代表的なふぐ料理、「てっさ」と「てっちり」

てっさとは「ふぐの刺身」の事であり、ふぐ料理の中でも定番とされている料理になります。ふぐに毒がある事は昔から知られており、毒に当たると死んでしまう事から江戸時代には「てっぽう」と呼ばれていました。

この背景には豊臣秀吉の時代から続く「河豚食禁止の令」が関係しており、江戸時代になってもふぐは厳しく取り締まられ食べる事ができなかったそうです。しかし禁止令が出ても庶民にとっては身近で美味しい食べ物であり、隠れてふぐを食べている人が多かったとされています。そこで誕生したのがふぐの隠語である「てっぽう」であり、てっぽうの刺身の事を省略して「てっさ」と呼ぶようになったのです。
てっさはお皿の模様が見える程薄く切られているのが特徴で、その薄さは職人の腕の良さを表しているともされています。見た目の華やかさがあるのはもちろんですが、実は薄く切られているのにはしっかりとした理由があるのです。ふぐの身は非常に弾力のある歯ごたえをしており、他の刺身と同様に厚く切ってしまうと噛み切りにくくなってしまいます。食べる人が美味しくふぐを味わう為に、簡単に噛み切れるような薄さにする必要があったのです。てっさは1枚ずつ食べるのではなく、数枚を1度にすくって食べるのが正しい食べ方だとされています。
てっちりとは「ふぐの鍋」の事であり、刺身とは違いふぐを厚く切って食べるのが主流です。江戸時代では昆布だしなどで煮ながら薬味を加えて食べる鍋のことを「ちり」と呼んでおり、「てっぽうのちり」からてっちりとなったのが名前の由来です。ふぐの白身はしっかりとした弾力がありますが、鍋にする事でふっくらとした食感に変わり甘味を感じられると人気があります。特にとらふぐのてっちりは濃厚な出汁が出て旨味が強く、他のふぐよりも香りが良いとされています。現在でこそ高級料理として知られていますが、もともとは庶民の味として多く食べられていました。

白身以外を味わう「てっぴ」「ひれ酒」とは？

ふぐは白身以外も食べられる事が知られている魚ですが、その代表が皮の刺身である「てっぴ」と、ひれを使って作る「ひれ酒」になります。
てっぴは珍味として重宝されており、食通の間で人気が高い部位になります。ふぐの皮を軽く湯通しし、冷水で冷ました後に食べやすい大きさに切り分け、細く短冊状にしていきます。てっさと一緒に添えて出される事も多く、ふぐ料理にアクセントを加えてくれると言われています。ただふぐの中には皮にも毒を持つ種類がいるので、とらふぐの皮がてっぴとして食される事がほとんどだそうです。ふぐの皮は3層からなっていて、それぞれが別に調理されます。表面部分の皮を「シャミ皮」、真ん中の「本皮」、1番下の白身と近い部分の層を「身皮」と言い、それぞれに食感に違いがあります。ゼラチン質のコリコリした食感が特徴でそのまま食べられる事もありますが、サラダや薬味などと一緒に食べられているようです。
ひれ酒に使われるふぐもとらふぐが多く、乾燥させたひれをあぶってからお酒に入れ蒸した物になります。ひれを入れてから少し待つとお酒がコハク色に変化するので、その頃が飲み頃です。お酒は75～80度程の熱燗が相性が良いとされ、お酒にふぐに香りや旨味がうつり、普段とは違った味わいを楽しむ事ができます。

毒を消してしまう「ふぐの子糠漬」とは？

ふぐには「テトロドトキシン」という毒があり、人に場合は1～2ミリグラムで致死量となる猛毒です。

ふぐの毒に当たってしまった場合、まず食後20分から口唇や舌、指先にしびれが出てきます。その後頭痛や腹痛がおこり、場合によっては激しい吐き気が伴う事もあります。次第に上手く話せなくなり、呼吸困難などの症状が現れ全身に麻痺が広がり、最終的に心停止に至ります。現在では死亡事故こそ減少しているものの、毎年20～30人程度は食中毒で病院へと運ばれているようです。このようにふぐの毒は非常に危険であり、調理するためには特別な免許が必要になります。ふぐは白身の他、皮や白子、ひれなどが食されていますが、ふぐの種類によってはこれらの部分にも毒が含まれているので、ふぐの扱いは非常に難しいのです。
通常は毒の含まれている部位は厳重に管理され廃棄処分されますが、毒の含まれている「卵巣」も調理によって無害にしてしまう方法があります。それが石川県に伝わる「ふぐの子糠漬」で、ふぐの卵巣に含まれる毒を塩や糠によって消し去って食べられる状態へと変化させてしまうのです。今では石川県の中でも限られた地域でしか作られていませんが、江戸時代には年貢として献上されていたという資料も残っています。
作り方はシンプルなのですが、完成するまでに3年もの時間を必要とします。まずふぐから卵巣を取りだし、それを大量の塩で漬けていきます。1年から1年半かけ塩漬けにした卵巣を、今度は糠に漬け更に1年～2年寝かせます。これによって毒が消し去られ、食べても害のない状態へと変化するのです。毒が消えるメカニズムはまだ正確には解明されていませんが、塩によって水分が抜ける時に毒も一緒に抜けていく、糠に漬ける事で発酵して毒が分解されるなどと考えられています。もちろん実際に出荷される場合は公的機関で毒性の検査を通過する必要があるので、安心して食べられます。ふぐの子糠漬は珍味として人気があり、チーズのような芳醇な香りと、味噌のような深い旨味が特徴となっています。塩気はかなり強いので、お茶漬けや大根おろしなどと一緒に食べられる事が多いようです。

とらふぐの美味しさを余す事なく食べよう！

とらふぐは白身だけでなく、皮や白子、調理法によっては卵巣まで美味しく食べられる魚です。またふぐの産地として有名な山口県では縁起を担いで「ふく」料理と呼ばれるなど、昔から日本全国で親しまれてきました。てっさと呼ばれるふぐの刺身が有名ではありますが、白身だけでなく他の部位にも良さがあるので色々なふぐ料理を食べてみましょう。